第2話 ダメホストvs極悪ホスト(前編)

 

「ちくしょー!!」
 スタッフルームではロッカーを叩く音とともに勘九郎の叫び声があがる。
「気を落とさないで、また頑張ろうよ」
 相棒の健一がなんとか励まそうとするが、その迫力に押されてしまっている。
「幸子さんは俺達の唯一の指名客だったんだぞ、それをあの野郎は…」
「そうだけど…」
 怒りと悔しさで身体を震わせている勘九郎にかけてあげる言葉が見つからない健一。
「あの人は卑怯だ、いつもそうだ。仲間としての意識なんてありゃしない。客を寝取るなんて…」
 勘九郎が怒りを吐き出したその瞬間、
「寝取ったなんて人聞きが悪いな。あいつがお前よりも俺を選んだだけの話じゃないか」
 勘九郎が言った「あの人」、tetsuが現れた。
 ホストクラブによっては永久指名制を採用している店もある。
 しかし、「スフィア」はホスト同士の営業力を煽るために敢えて永久指名制を採用していない。
「スフィア」ではお客が指名替えをすることは自由なのだ。

 それゆえに起こってしまった事件だった。
 この制度ではよくあること…いや、「スフィア」においては一度も起こっていなかった。
 ホスト達が店内ルールを破ることなくライバルとして競い合っていたからだ。
 だが、tetsuは違った、ルールなんかお構いなし。
 自分がトップに立つためには手段を選ばない。
 ホスト達の仲がいい「スフィア」に強烈な風を吹き込む存在として採用されたはずが嵐を巻き起こしているのだ。
「tetsuさん、あんたのやったことは明らかなルール違反だ」
「ルール違反と言われても選んだのは『お客様』だからな。それにこの店は永久指名制を採用していない。力のないダメホストが客を取られるなんて当たり前の事だ。俺に文句を言う前に客を満足させる力の無い自分をどうにかしたらどうだ?」
 今にも殴りかからんとする勘九郎に対して余裕の表情のtetsu。
 常に冷めた目をしているが、その瞳の奥には強烈な憎しみを宿している。
「くそっ…」
 勘九郎は押さえきれない怒りをロッカーにぶつける。
「店の備品壊しちゃまずいよ…」
 二人が喧嘩になるのを止めようとする健一だが、あまりの成り行きにどうすればいいのかわからなくなっているようだ。
「頭の悪い奴はすぐ物にあたる。ま、お前にはその無駄にデカい身体とバカ力しかないからそれくらいしかできないんだろ」
 涼しい顔で勘九郎の怒りに油を注ぐtetsuと青い顔でそれを見ている健一。
「許せねー!!」


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