第7話 真夏の夜の怖い話

 

 日本の夏…
  夏といえば怪談話、みんなこの手の話は好きなようで…
  営業終了後の暑い中男達が頬寄せ合って怪談話を始めたようです。
  それを皆様にもお話いたしましょう。 
   この話は我がホストクラブスフィアで起こっているお話でございます…

「最近のあいつの様子やばくないか?」
 話し始めたのはSHURA。
「確かにやばいですねぇ」
 と、相槌を打ったのは健二。
 怪談話をしていてもその柔らかい空気は変わらない。
「何のことですか?」
 まったくなんの話か把握していなかったのは健一。
「お前何も知らないんやな…tetsuさんのことや」
 柔らかく言った健二だか、何も知らない…と言った言葉の中に「だから売れないんだよ」が含まれていることを誰もが悟った。
「また、あのスケベ野郎がなんかやらかしたんですか!」
 tetsuの話とわかり勘九郎がいきなり敵意むき出しになる。
 そんな勘九郎を無視してSHURAが続ける。
「あいつの指名客に黒髪の暗い女性がいただろ?」
「あ〜、いましたねぇ」
 と、健二。
 この「スフィア」では少し有名なお客様の話。
「その人のことなんだけどさ…」
 声をひそめるSHURA、そして健一が話の核心をついた。
「tetsuさんがメイドのように利用して捨てたって噂の…」

 tetsuが1人でなにやらつぶやいている。
 目は血走っていて焦点が合っていないようだ。
 その様子は明らかに尋常ではない。
「俺が何をしたって言うんだ、俺はホストだ、お前に充分夢を見させてやったじゃないか。お前は俺と過ごす時間のために金を使い、俺のために身の回りの世話をした。俺ほどの男を相手にだ。
 お前には充分すぎる幸せだったんじゃないのか?そうだ、俺はお前に喜ばれるようなことがあっても恨まれる筋合いなんてない。お前は幸せだったんだろう?なのに、なぜお前は死んでも毎日現れる?なぜ恨みがましい目で俺を見る?俺ほどの男がお前なんかを本気で相手にすると思っていたのか?
 やめろ、俺をそんな目で見るな、やめてくれ…やめてくれ、貞子〜〜〜〜〜〜〜!」

 tetsuの叫び声と同時に閉まっていたはずのドアが激しい音を立てて動いている。
 ドアだけではない、窓や家具なども激しい音を立ててありえない動きをしている。
「なぜなんだ?お前は俺を恨んでいるのか?俺が何をしたって言うんだ…」
 tetsuが一点を見つめてつぶやく。
 ワタクシ達の目には何も見えません。
 しかし、tetsuにだけは何かが見えているようなそんな感じなのです。
「俺は…俺のやり方でトップになるんだ。女はそのための道具だ。女達は俺に金を使い、俺はそんな女達にひと時の夢を見させる。ホストと客はギブ&テイクの関係だ、それ以上でもそれ以下でもない…その中でもお前には特別な夢を見せたじゃないか。貞子、お前の望みはなんだ??俺の命か?」
 それは、本当に異様な光景でした。
 何もない空間に向かってtetsuはしゃべり続けている。
 それも、強気と罪悪感が混在していて苦しんでいるような、なんとも言えない表情で一点を見つめている。
「命…そんなものがほしければくれてやる。だが、今はまだくれてやるわけにはいかない。俺がこの世界のトップに立ってからだ。貞子、俺を愛していたならわかるだろ?俺の幸せこそがお前の幸せ、そうだろ…?トップに立つまでは俺は何者にも負けない、それが死人であろうとなんだろうとな!」
 tetsuが叫んだ。
 それと同時に部屋中の全てのものが激しい音を立てた。
 そして次の瞬間、今までの激しい音が嘘のように静かな闇に包まれた。
「消えた…?ふっ…俺は悪霊にも勝ったんだ、もうこの俺に怖いものはない…あ〜はっはっは、そうだ…俺は最強なんだ、俺が俺が…」

 
「ってことがあったらしいんだ。かなりやばいだろ?」
 話し終わったSHURAがみんなの顔を見回した。
「tetsuさんどうなってしまうんやろうな…?」
 心配そうな健二、それとは対照的に
「ま、あのスケベ野郎らしいじゃないですか」
 と、勘九郎。
 その声と同時にスタッフルームの扉が開いた。
「あ、tetsuさんお疲れ様です…」
 と、挨拶した健一だったがtetsuの後ろを見たまま固まってしまった。
「何やってるんだ?営業が終わったんだから早く帰れ」
 4人の姿を見てtetsuが言った。
 4人は答えない…いや、答えられない。
 4人とも目線はtetsuの背後で止まっている。
「変なやつらだな…お疲れ」
 出て行きかけたtetsuに健二が言った
「tetsuさん後ろ…」
「後ろ…?何もないじゃないか」
 そう言って出て行くtetsu。
「………………うわぁ〜〜〜!」
 4人が叫び声を上げて出て行った。
 tetsuの背後に4人が見たもの。

 それは、しっかりとtetsuにしがみついている女性の姿だったのです… 


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