第8話 さよなら健二

 

 本日もいつものオープニングから。
 いつもの曲でいつものようにホスト達がお客様の前に姿を現します。
 先日体調不良で欠勤したSYUも元気になりしっかり出勤しています。
 しかし、今日はいつもと違うコールをしなければならないのです。
「まずはお馴染み、いつまでたっても売れないホスト、勘九郎&健一」
 この次は健二の出番。
「目指すはNO.1、癒し系ホスト健二…は、昨日をもって退店いたしました」
 お客様がざわめく。
 それもそのはず、お客様はもとより当店のホスト達も健二の退店は今日、初めて聞かされたことだったのです。

 昨日の閉店後、唯我オーナーから明日は全員少し早めに出勤するようにとお達しがありました。
 ワタクシはマネージャーの立場からこのことを事前に聞かされていたので来るべき時が来たのかという感じでしたが…
 翌日、ホスト達は何かわからぬままいつもより早めの出勤。
 健二を除く全員が集まってスタッフルームで唯我オーナーを待つ。
 事情の知らないホスト達は健二がいないことを言いながら…
 と、そこへ唯我オーナーと健二が一緒に現れました。
「健二、遅いよ」
 と、SHURAが軽く言う。
 その空気を破って唯我オーナーが
「健二は昨日をもってスフィアを退店しました」
 驚いて顔を見合わせるホスト達。
「オーナー、どういうことなんですか!?」
 SYUが言う。
「健二はマーベラスのオーナーの息子さんで、スフィアに修行に来てたのよ。しばらくの間他のお店で修行をして、マーベラスで本格的にデビューいうことだったの」
 唯我オーナーは全員に言い聞かせるように言った。
 マーベラスとは上福岡にあるホストクラブでスフィアのホストと若いホスト同士は一緒にイベントをやったりと仲のいい協力店だ。
「だったらなんで最初からそう言ってくれなかったんですか」
 と、勘九郎。
「立場を隠して下っ端から入店させるっていうのがマーベラスのオーナーのご意向だったの。それにみんなマーベラスのオーナーの息子だって聞いたら変に気を使うでしょ?」
 唯我オーナーの言葉にホスト達は黙ってしまった。
「これから健二はマーベラスのホストとして、お店は違うけど私達と同じ業界の人間として頑張っていく事になるの。仲間ではなく今度からはライバル、そして同志として…健二、短い間だったけどお店を盛り上げてくれてありがとう。スフィアでの学んだ事が役に立つ事願ってるわ」
 笑顔で健二に言葉をかけるオーナーだが、お店の人間を失うのは誰よりも一番悲しいはず。
 それがたとえ期限付きだったとしても…
「オーナー、みなさん、お世話になりました。マーベラスに戻ってもスフィアで学んだ事を忘れずに頑張ります!」
 力強く宣言する健二は今までで一番頼もしく見える。
「頑張れよ」
「たまには遊びに来いよ」
 など、みんなが口々に健二に言葉をかける。
「本当に、本当にありがとうございました」
 いよいよ健二の旅立ちのとき。
 全員が外まで健二を見送った。
「あ、僕の友達をオーナーに紹介しておきましたからそのうち来ると思いますので仲良くしてやってください!」
 そういい残して健二はスフィアを後にした。

 全員がステージに立った。
 センターでマイクを握ったのはSYU。
「今日もたくさんのかわいこちゃんたちが集まってくれたね。前回は体調を崩してしまい楽しみにしていた皆には迷惑をかけてしまったな、今日は健二が退店してしまい少し寂しいがその分頑張るから楽しみにしていてくれ。それでは乾杯といこう。今日は俺が乾杯のコールをしよう、さぁ、飲み物を手に持って」
 少し寂しくなってしまいましたが今日もはりきって営業開始です! 


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